あと30日で、他人に戻るふたり
「じゃあ、スープの中に白菜を入れてください」

「分かった」

うなずくやいなや、白菜をちぎって一枚まるごと入れようとしていたので吹き出してしまった。


「ちょっと!待って!」

「なに?」

まるごと入れようとする人、初めて見た。
天然記念物みたいだ。

「包丁使ってください。切るんです」

「どのくらいの大きさ?」

「食べやすい大きさ」

「えっ…なんだそれ」

まるで生まれて初めて聞いたような反応。
そんなわけあるかい、と心の中で突っ込んでしまった。


狭いキッチンに二人立つと、かなり窮屈だ。
それでも慣れない包丁を握る彼を見るのは、危なっかしいという気持ちよりも新鮮な気持ちの方が強い。

白菜はだいぶ大小様々な大きさだったけれど、まあ鍋に入れてしまうか、いいとして。

ネギも切るよう頼んだら、見事にぶつ切りだった。


「……なに笑ってんだよ」

切ったものをザルに入れながら、私の顔を見て不満そうにしている。

「ううん。切ってあればいいんです。鍋に入れちゃえば分かんないですし」

「フォローされるのもなんか嫌だな」


ぶつくさ文句を言っているのは、聞こえないふりをした。

白菜の芯の部分からスープに入れて、葉の部分はあとから入れるために取っておく。
人参は私が切ったものを入れ、きのこや豚バラ肉もちょうどいい大きさに切ってスタンバイは完了だ。

ぐつぐつと煮立ってきた鍋を眺めながら、彼がまだ投入されない具材をちらりと見やる。


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