あと30日で、他人に戻るふたり
「これ、鍋に入れる順番あるの?」

「決まりはないですけど、火が通りにくいものから先に入れます。家庭科の調理実習で習いませんでした?」

「記憶ないって…」

呆れながらも、どこか楽しそうにそう言う彼の横顔を見て、ふと手を止める。


……なんか、いいな。


ぐつぐつと音を立てる鍋から立ち上る湯気が、キッチンいっぱいに広がっていく。


やがて大きな深いフライパンに並々になった鍋を、いつもより少し気をつけながらリビングに運んだ。

今日作ったのは、寄せ鍋。
キムチ鍋と迷ったけれど、野菜をより多く摂れる寄せ鍋にした。

美味しそうな匂いがリビングいっぱいに広がる。


「鍋は簡単ですし早くできるからいいですね」

「これで簡単なのか」

「じゃあ、早速食べましょ」


炊きたての白米を茶碗によそい、お茶と一緒にテーブルへ運ぶ。
間違いなく鍋との相性は抜群だ。

ローテーブルに並んで座り、二人で「いただきます」とフライパンの蓋を開けた。


「……うまい」

隣から、シンプルな感想が聞こえてきた。

ふふっと笑って、かなり熱いので少し冷ましながら私も食べ進める。


「やっぱり鍋は間違いないですね」

「うん。うまい」

彼は私の方はまったく見ず、鍋をかき込んでいる。

熱そうだけど、美味しそうに食べていた。
ご飯が進む味で、なかなかいい味だ。

彼の食べるペースがだいぶ早いので、私もつられて箸を動かす。


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