あと30日で、他人に戻るふたり
こっちがちょっと呆気に取られているのに、彼はまだゴミ出しの話を続ける。

「ペットボトルのラベルがストレスなんだよな」

「あ、あれ!ちゃんと剥がしてください!私がやってるんですよ、毎回」

「あ。ありがとうございます」

急に敬語になるの、やめてほしい。

「キャップも外すんですからね。これ常識です」

「めんどくさいな…」

お決まりの言葉を吐いた彼が、少しだけ笑った気がした。

「じゃあ今度から任せるわ」

「やだ!丸投げしないでください」


言い合いしている間にエレベーターが到着する。

着いた瞬間、私たちのとは違う明るい声がエントランスに響いた。


「あらー!おはようございますー!」

隣のご婦人、篠原さんだった。
今日も朝から元気でお綺麗でいらっしゃる。

「「おはようございます」」

また隣と声が揃って挨拶した。


「いつも一緒に出勤で仲良しねえ」

「あ、いえ…たまたまです」

私がつい返事をしていると、さっと彼が離れるのが視界に入った。

「今日も昼間は暑くなるかしら?最近気温差すごいじゃない?」


そっちに行きたいのに、奥様のお話が終わらない。

私の視線がこっちを見ている彼と、奥様の笑顔を行き来する。
……ちょっと、助けてよ。

そんなことを思っていたら。


「美月、先に行ってるね」

彼はそう言い残して、私と奥様を取り残して行ってしまった。

一瞬、何を言われたのか分からなかった。


「朝晩は肌寒くて、昼間はちょっと汗かくじゃない?上着持って歩くのも疲れるでしょー?調整するのも大変よねぇ」

篠原さんが世間話を繰り広げているというのに、申し訳ないけれど、今の私の頭にはあんまり入ってこなかった。


────だめだ、しっかりしなきゃ、私。




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