あと30日で、他人に戻るふたり
朝のバタつきが嘘みたいに、オフィスはいつも通りの空気だった。


パソコンを立ち上げて、メールとチャットを確認する。 週明けはどうしてもタスクが多い。

資料を開いて作業に集中しようとしたところで、背後から声がかかった。


「穂村、おはよう」

振り返ると、八代さんが立っていた。

相変わらずいつ見ても彼は整っている。当然だけど、彼の乱れた姿なんて見たことがない。


「あ、おはようございます」

「ちょっといい?」

そう言って、彼は私のデスクの横に軽く寄りかかる。

距離が近い、と思ったけれど、仕事の話だろうと気にしないようにした。


「例の件、どうなってる?」

「あ、はい。今まとめてるところです」

「見せてもらっていい?」

言われるがままに画面を少し横にずらすと、彼は自然な動きでこちらに身を寄せてきた。

モニターを見るため、という理由は分かる。
分かるけれど。

胸の奥が、いつもと違うざわめきを持つ。


「……もうちょい寄っていい?」

確認を取っているようで、もうほとんど距離は変わらない。

「大丈夫です」

そう答えると、彼は「ありがと」と軽く笑った。


画面を指差しながら、いくつか修正点を指摘される。 的確だし、無駄がない。

ちゃんと優しくて、ちゃんと分かりやすくて、ちゃんと目を合わせてくれる。

ちゃんとしていることに、少し前は安心さえ感じていたのに。


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