あと30日で、他人に戻るふたり
言いかけて、やめる。

代わりになんとか笑顔を作って

「はい。その時はお願いします」

なんて、取り繕うみたいな言葉が出てきた。


分かってはいたことなのに、課長に言われるまで記憶の片隅に追いやっていた。


彼と同居するのは一ヶ月だけだ。
出ていかないという選択肢が彼にあるわけもない。

その事実を他人から言われて、不思議な気持ちになった。


机の上の卓上カレンダーで、日にちを見てしまった。
そうか────

彼が出ていくまで、あと、三週間だ。



課長が離れたあと、言われた部分を直そうとマウスに手をかけたところで、

「大丈夫?」

と声をかけられた。

八代さんが、まるで通りかかったみたいにタブレットを持ったままこちらを見ている。


「え?」

「なんか、ぼーっとしてたから」

心配されるほど、ぼんやりしていたのかと息を飲んだ。
悟られないように、いつもの声で

「──大丈夫です」

と返したはずなのに、自分でも少しだけ遅れた気がした。


「無理しない方がいいよ」

軽くそう言って、八代さんはモニターに視線を落としながら声をひそめる。

「課長、ああいう言い方するからさ」

フォローしてくれてるつもりなんだろう。

ちゃんと優しい。
ちゃんと気を遣ってくれている。

それがしっかり伝わってくる。
だからこそ、余計に引っかかる。


あの八代さんに、気にかけてもらえている。

────なのに。


「……はい。ありがとうございます」

うまく笑えたか分からないまま、視線を画面に戻した。

……前だったら、普通に嬉しかったはずなのに。
どうしてなんだろう。


マウスを動かしながらも、さっきの言葉が少しだけ残っていた。



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