あと30日で、他人に戻るふたり
「大地さん」

呼びかけてから、──あ、と思うけどもう遅い。

「ん?」

「明日、帰り遅くなります」

私も勢いで押し切った。

「残業?」

「いえ、残業ではないんですけど…ご飯食べて帰る約束してて」

「へぇ、誰と?」

改めて聞かれると、どう答えていいか分からなくなる。
八代さんのことをなんと言うか考えて、一拍遅れて答えた。

「……会社の先輩と、です」

「ふーん」

特に気にした様子もなく、分かった、と続けられた。


私はまだ半分しか食べていないというのに、彼のお皿はいつの間にかもう空になっていた。


彼は食器を重ねると立ち上がり、キッチンに向かいかける。
その途中で足を止めて、

「あ、美月」

と呼ばれた。

動きが止まったのは、私だけ。


「昨日、傘ありがとう。濡れてるから外に立てかけてあるけどいい?」

こちらの返事が遅れる。

「……は、はい。大丈夫です」

「助かった」

それだけ言って、キッチンに行ってしまった。


さっきまで美味しかったはずなのに、味がよく分からなくなった。


テレビの音だけが、やけに響いていた。



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