あと30日で、他人に戻るふたり
八代さんがよく行くというダイニングバーは、思っていたよりも落ち着いていて、そして店員さんが彼のことを知っているのか気軽に話しかけてきた。

「修くん、お疲れ様です〜。会社の子ですか?」

グラスに入ったビールを二つを持って、女性店員さんがやってきた。

「うん。後輩の子」

ああ、そうだ。
私はそういう立場なんだと、改めて思う。


「そうなんですね」

店員さんがちらりとこちらを見てくる。
たぶん、まだ二十歳そこそこか、大学生くらいの若い子だ。

慌てて軽く会釈すると、その子もぺこりと頭を下げた。


「ごゆっくりどうぞ」

そう言ってテーブルに置いていったのは、ルッコラと生ハムがおしゃれに盛り付けられた小皿。
お通しも、ちゃんとしている。


「……すごいですね。従業員の皆さんとお知り合いみたいな感じですか?」

「まあ、よく来るからね」

八代さんは軽く笑って、「乾杯しよ」とグラスを持ち上げる。


「「お疲れ様です」」

カチン、とグラス同士が音を立てた。


「明日頑張れば休みだな」

ぐびっとビールを流し込んだ八代さんが、初っ端からしみじみとそんなことを言うものだから笑ってしまった。

「八代さんも、そういうこと言うんですね」

「言うよー!週末が待ち遠しくてしょうがないよ。穂村は違うの?」

「週末は──待ち遠しい、です。最近は」


言ってから、なにを口走ったんだ、と息を飲む。

“最近は”なんて意味深すぎる。
でも、そんな私には気づかず八代さんは椅子にもたれて息をついた。


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