あと30日で、他人に戻るふたり
「ほら、いま住んでるとこだってそうじゃん」

急に八代さんからその話題を振られ、一瞬動揺する。
胸が押しつぶされそうな感覚。

でも、気づかれないように蓋をした。

「課長も穂村のこといいように使ってるよな。知らない男と同居なんてさ、ありえないからな、普通は」

「────ああ、それは……。大丈夫です」

「ほんとに?」

「はい。生活リズムもそんなに合わないですし」


言いながら、そうじゃない、とも思う。

生活リズム云々じゃなく、私とあの人は生き方が違うとも思った。
それでも生活の一部みたいに、切り離せない存在になってきているのも否定できない。

「穂村がそう言うならいいんだけどさ。それなりなら。さっさと追い出しちゃえよ」

「……まあ、一ヶ月だけなので」


言葉にすると、ひどく乾いた響きを持っていた。

『一ヶ月だけなので』
それは、終わりが見えている証拠だ。


私がそれ以上なにも言わないので、八代さんとの間に妙な沈黙が流れる。

……変な空気になってしまった。


「なあ、今度遊びに行かせてよ。いわくつきの部屋なんだろ?」

絶妙なタイミングで切り出されたその提案に、私は慌てる。

「えっ、いや、それはちょっと」

「そのうち!約束!今度でいいからさ」

「散らかってますし!」

「いいっていいって!なんでみんな短期で出ていくのか気になってるし!」


言葉が見つからなくて、グラスに視線を落とす。

────どうしよう、帰りたいかも。


こんなことを考えるなんて、私はどうかしている。

視線を上げられないまま、グラスに口をつけた。




••┈┈┈┈••

< 154 / 403 >

この作品をシェア

pagetop