あと30日で、他人に戻るふたり
「……ただいま」


玄関でつぶやいた声は、自分で思っていたよりも小さかった。

自分の脱いだパンプスと、乱雑に脱いである黒いスニーカーを整えてリビングへ向かう。


リビングのドアの前で立ち止まる。
明かりが漏れていて、テレビの音がする。

まだ、起きてる。


今度は明るめに意識して声を出した。

「ただいま」

言い直したら、ソファから人影が起き上がるのが見えた。

「おかえり」

いつも通り、ソファに寝転んでだらっとスマホを見ている彼がいて、そのマイペースさに気が緩む。


「疲れたあ」

思わずそう言いながら、そのままソファに私も寝転んだ。

ソファを占領していた彼を押しのけてごろんと横になったら、隣から不思議そうな声が聞こえた。

「なに?先輩とじゃなかったの、メシ」

傍らにパンを置いてるあたり、たぶん彼の夕飯はパンだ。
いつでも裏切らない、適当さ。


「そうです。先輩と行ってきましたよ…」

思いのほか、受け答えする声が弱くなる。

スマホをいじりながら、視線を合わせるもことなく彼が首をかしげた。

「楽しくなかったの?」

「────どうなんだろう…」

「じゃあなんで行ったの?」

「えっ、なんでって…」


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