あと30日で、他人に戻るふたり
「……おはよう」


洗面所のドアを開けて廊下へ出たところで、後ろから低い声がした。

反動でびくっと肩が揺れてしまった。

「お、おはようございます」

振り返らないまま返事をする。
声が、少しだけ上ずった。


「……寝てたな」

当たり前といえば当たり前の話題。
これだけは謝らなきゃ、と振り返る。

そこには、別に怒ってるわけでも気にしてるわけでもなさそうな、いつもの彼が立っていた。

「すみません、ソファ占領して……」

「いいよ、別に」

短く返される。

それだけなのに、なぜか落ち着かない。


「……ブランケット、ありがとうございました」

言うか迷って、結局口に出してしまう。

「ん?」

「かけてくれてたので」

「ああ、冷えるから」


それで会話は終わった。

終わった、はずなのに。
どうしてか、さっきまでよりずっと意識してしまう。


『冷えるから』って言うけれど、自分は何もかけないで寝てるわけで。
そういうところなんだよね、とざわつく胸を撫で下ろしながらリビングへ戻った。



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