あと30日で、他人に戻るふたり
あまり興味がなさそうにしているけれど、私はそれでも構わなかった。

ここでこうしてなんでもない日に、行かなくてもいいようなパン屋に行くことに意味がある。


暑そうな彼の方を振り向いて、「ほら、早く!」と急かした。


歩いてほどなくして着いたパン屋は、先ほどのスーパーとは一転して落ち着いた雰囲気で。

静かくて小さな空間に、厳選して作られたパンが並んでいる。

大衆向けではないところが彼にも刺さったのか、荷物を持ったまま店内をウロウロしていた。


「……ここの食パン、買えばよかった」

「買ったらいいじゃないですか。毎朝サンドイッチでもいいですよ」

「トースターで焼いてくれる?俺、焦がしそうだから」

「ふふっ」

小声での会話の中に、一滴の笑みが混じる。


「いいですよ。じゃあコーヒー淹れてくださいね?」

「優雅な朝だな」

「早起きしないとだめですね」

「まあ、頑張るよ」


フードであまり見えない大地さんの顔が、この狭いパン屋では少し垣間見えた。
口元がほんのちょっと緩んでいる。

忘れてしまうかもしれないような、小さな約束。
それが今の私にはちょうどよかった。




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