あと30日で、他人に戻るふたり
空中に自分の手を持ち上げ、後ろにいる大地さんに見えるように説明してみる。

「右手で留め具の引っ掛けるところをつまんで、開いたところから左手で輪っかを引き抜くイメージです」

「────は?」

ちっとも理解していない声。


「じゃあスマホで調べてください!」

「両手塞がってんのに無理に決まってんじゃん」

口論しているうちに、プチッと嫌な音がした。


「……あっ」

不吉な声と同時に、引っ張られていた髪の毛の痛みが消える。

振り返ると、彼の手の中にチェーンがちぎれたネックレスがぶら下がっていた。


「ごめん」

短くそれだけ言って、大地さんはネックレスを見つめたまま少しだけ黙った。

「……直せるかな、これ」

「……大丈夫です」

そう言ったけど、全然大丈夫じゃなかった。

とはいえ、ここで彼を責めるのは絶対に違う。


「他にもネックレスはあるから、気にしないでください」

ちぎれたそれを受け取ってそう言うと、彼はうなずいた。

「髪の毛は?もう痛くない?」

「はい。痛みはなくなりました」

「ならよかった」

彼はもう、いつものソファの定位置に座り直していた。


そのままネックレスを手のひらに握り込む。

ポケットに入れるか迷って、結局、テーブルの上にそっと置いた。


「ご飯、どうします?」

さっきまでの空気をなかったことにするみたいに、わざと明るく声を出す。

スマホをまた手に取ろうとしていた彼が、手を止めた。

「……ざく切りの野菜を使うようなやつ」

「手伝ってくれるんですか?」

「うん。ざく切りは覚えた」

素直な答えに、少しだけ空気が緩んだ。


大地さんの方を見ないようにしているのに、さっきの距離だけがまだ残っている。


立ち上がった私は一瞬ネックレスを見下ろして、ほんの少しだけ、惜しいと思ってしまった。

近かった声と距離が、今はもう元に戻っている。


消えたはずの感触が、まだそこに残っている気がして。
そっと首元に触れた。




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