あと30日で、他人に戻るふたり
大して気にしてなさそうな返事をして、彼はお湯を沸かしていた。

棚の上の段に置いてあるコップをふたつ、背伸びして取り出そうとしたら頭の上からするっと手が伸びてきた。

「コップ、危ないからしまう場所変えたら?」

そう言って、カウンターに置いたコップを並べて首をかしげる。

「いつも背伸びしてるじゃん」

「えっ…、意識してなかったです」


食器棚は前のアパートから持ってきたものだったので、特に気にしたことがなかった。

────見られてるんだ。

そう思った途端、さっきまで普通だった距離が少しだけ落ち着かなくなる。


なんとも言えない気持ちでパンをトースターに入れた。


焼き上がったパンとコーヒーをリビングのテーブルに運んだところで、ふとソファの上に置かれた彼のスマホが目に入る。


何気なく画面を見ると、直前まで開かれていたらしい賃貸サイトの履歴が残っていた。

でも、条件は何も入っていない。

……探してる、のかな。


慌てて見ないようにして、ラグの上に座った。


「……部屋、」

呼びかけるみたいに声に出して、でも、その先が続かなかった。

聞いてしまったら、なにかがはっきりしてしまいそうで。


「なに?」

よく聞き取れなかったのか、隣で大地さんがパンをかじりながらこちらを見る。

『部屋、探し始めたんですか?』

たったそれだけの言葉を、言えなかった。


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