あと30日で、他人に戻るふたり
「なんでもないです。パン、ふわっふわですね」

「うん。サックサクしてる」

「え?ふわっふわですよ」

「サックサクじゃない?」

「……」

また、噛み合わない。


こういうなんでもない会話も、半月後にはなくなるんだと思うと。
やっぱり言い出すことはできなかった。


表面の焦げ目がちょうどいいとか。
トーストしたパンにはブラックコーヒーが合うとか。
パン屋の食パンは少しだけもちもちしているとか。

他人から見たらどうでもいいほんのわずかな感覚が、私たちは合っている。


だけど、それだけじゃない気がしているのに。
うまく言葉にできなかった。


「もう一枚、焼いてきます?」

気づいたら、そう聞いていた。

この気持ちを出さないように、いつもの空気に戻したくて立ち上がる。

「うん。食べる」

「待っててください」


キッチンに足を踏み入れて、深呼吸した。


────考えないようにしよう。

出ていってしまう未来は確実にやってくるわけだし、私が口を挟む余地もない。仕方のないことなんだから。


気持ちを切り替えて、パンをトースターに入れた。




••┈┈┈┈••

食べ終わったあとも、なんとなくそのままリビングで過ごしていた。


ソファに寝そべり、満たされたお腹で少し眠い。

テレビはついているのに、内容はほとんど頭に入ってこない。


ふと隣を見ると、大地さんもまた私と同じように寝転がってスマホをいじっている。
いつもと変わらない光景なのに、なぜか落ち着かない。

私と彼の間に空いているひとつぶんの隙間が、いつまで経っても埋まることのない関係性みたいだった。


彼はスマホの画面を見たまま、少しだけ動きを止めている。
……見てるのか、見てないのか分からない。

私みたいに、ちょっと眠いのかな。


声をかけようとして、やめる。
別に話すことなんてないのに、話したい気持ちだけが残る。


そのまま、またテレビに目を戻した。

昨日と同じはずなのに、少しだけ違う気がした。


自分の気持ちが、この間からぐちゃぐちゃだ。
全部が隣でだらけている男のせいだと思うと、それも悔しい。

彼に背を向けるように座り直して、またごろんと寝転んだ。


そしてそのまま、寝てしまった。




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