あと30日で、他人に戻るふたり
いつもの私は、マンションから出たら駅へ向かう道しか歩いたことがなかった。

仕事へ行く動線として、その道中にあるスーパーやコンビニ、カフェなんかは把握していたけれど。
ちゃんと近所を歩くのは初めてだった。


まったく違う方向へ歩いてみると、新しい発見がたくさんあった。

小さな公園や、保育園や小学校などもあって、スーパーに家族連れが多く訪れている理由が分かった。
ファミリー層に強い地域なのだ。


子供の手を引いて歩いている人や、ベビーカーを押す人、小学生が数人で笑いながら歩いているのを、遠くから眺める。

道行く人を、ちゃんと見たことなんてなかった。


「そっか、このへんって住みやすい場所なんですね」

「え?」

「ほら、スーパーとか行くとけっこう家族連れ多いなって思ってたんですよ。きっと子供を育てるにはちょうどいい街なんだなぁって」


すれ違う人たちを微笑ましく見ていると、隣を歩く大地さんはあまり興味がなさそうに前を向き直した。

「……言われてみれば、そうかもね」

「大地さんは会社こっちでしょ?なんでそういうの気づかないんですか?」

「あんまり他人を気にしたことない」

そう言いながらも、さっきまで私が見ていた親子連れの方に、ほんの一瞬だけ視線をやっていた。


「……じゃあ、結婚とかも興味ないんですか?」

軽い調子で聞いたつもりだったのに、自分でも少しだけ踏み込みすぎた気がして。

言ってから後悔した。


「うーん」

大地さんはすぐには答えずに、少しだけ考えるように視線を上げる。

「別に、したくないわけじゃないけど」

それから、あっさりと続けた。

「まあ、する時はするんじゃない?」


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