あと30日で、他人に戻るふたり
あまりにも力の抜けた言い方に、思わず言葉が止まる。


「ちゃんと考えてるわけじゃないけどさ」

隣で歩きながら、彼はいつもと同じ調子で言う。

「なんか、理由とかなくても、そうなる時はなる気がするし」

夕方の風が、少しだけ強く吹いた。

さっき見た親子連れの姿が、頭の中にぼんやりと浮かぶ。
もうあの親子は、通りにはいなかった。


「……そうですか」

それ以上は、聞かなかった。

うまく言葉にできないまま、飲み込んだ。



低い家が並ぶ道を抜けると、少しだけ視界が開けた。


さっきまでの住宅街の空気とは、どこか違う。

見慣れない高さの建物が、ぽつりと視界に入る。


近づいてみると、それはガラス張りのオフィスビルだった。

エントランスの明かりはまだついていて、中にはスーツ姿の人が何人か見える。
忙しそうに行き来している姿がある。


何気なく見ていたビルの、いくつか並んだオフィス名を眺めてふと振り向く。

「……ここって」

私がそうつぶやくと、隣で大地さんがうなずいた。

「うん。俺の会社」


マンションから歩いて五分、って言ってたけど。
本当に近い。
そして、なにより。

────大きい。
うちの会社より、ずっと。


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