あと30日で、他人に戻るふたり
竹中さんは資料をめくりながら、少しだけ眉を寄せる。


「これね。うーん……さっき見たよ。できなくはない、けど……」


明確に言葉を濁され、竹中さんのその雰囲気で空気が変わる。

「ちょっと工数増えるんだよね。あと、この部分──」

彼に指で示された箇所を見て、思わず息をのむ。
気にしなければ気づかない場所だ。

営業でもたぶん、ここは見逃してるかもしれない。

「ここ、前提が変わってる。このままだと他の機能にも影響出ると思うんだ。それでもいいのかな…」


……ああ。
やっぱり、今日は来てよかった。

こうして自分で考えて動くことで見えてくるものが、ちゃんとあるんだ。

胸の奥で、小さく何かが落ちる。


「……そうですよね」

自然と、言葉が出た。

「確認していただいてありがとうございます。一度、持ち帰って整理します」


竹中さんから資料を受け取って、軽く頭を下げる。

「ごめんね、いつも損な役回りさせちゃって」

「…いえ。それは全然です」

彼の小さな気遣いに会釈を返して、私は開発部をあとにした。


自席に戻る足取りは、さっきより少しだけ速かった。


さっきまで感じていた違和感の正体が、少しだけ形になった気がする。


“このまま進めていいですか”が正解じゃない。

ちゃんと、見ないといけない。


デスクに戻って、深く息を吐く。

────さて、どう伝えよう。



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