あと30日で、他人に戻るふたり
仕方なく、背伸びして手を伸ばす。
ジャケットの袖をつかんで、ぐいっと引っ張った。
「なんか、もうほんとに無理なんですって!」
「いててててっ!なにが?いてっ!マジで痛い!」
私がこんなにも情緒がおかしいのに、あちらはただただ痛がるのみ。冷静すぎる。
力一杯に袖を引っ張ってもびくともしない。
「破けたら弁償してくれんの?」
「しますします!とにかく落ち着かないんです!」
「は?意味分かんない」
呆れながらもそれでも観念したのか、ようやくジャケットを脱いでくれた。
私の腕の中にそれがはらりと落とされた。
若干、袖部分がシワにはなっているが。見ないふりをする。
「ハンガーに掛けてくる」
「……ありがとうございます」
ジャケットを渡した瞬間、余計に落ち着かなくなった。
今度はワイシャツ姿か。これもまたこれで無理。
次から次へとやってくる新鮮な姿に、頭が痛い。
「あの!ネクタイも外した方がいいんじゃないですか?」
「えっ…、今度はネクタイ?」
「苦しそうですよ」
「苦しくはない」
「苦しく見えます!」
「なんなの?今日はやたらと突っかかってくるね」
私の意図なんて気にしない顔で、結局そのまま彼はネクタイをゆるめながら親子丼を持ってラグに座った。
「もういいって。あったかいうちにご飯食べようよ」
「……スミマセン」
このひと騒動にすっかり心が疲れて、私もしおらしく親子丼をテーブルに置くと彼の隣に座る。
────もう今日は、絶対に隣なんて見ないんだから。
「「いただきます」」
いつも通りのやり取り。なのに、なんとなく落ち着かない。
見ないって決めたそばから視線を上げると、ネクタイをゆるめたままの彼が目に入る。
いやいやいやいやいやいや。やめてよ。
……なんでそんな状態で平然としてるの。
ひとり忙しなく動いている心臓と格闘していると、親子丼をかき込んでいた彼がふと眉を寄せた。
「……ほんとにどうしたの、さっきから」
「なんでもないですって」
このやり取り、二回目だ。
私ってもしかして、分かりやすい?
バレてたらどうしよう、と不安に駆られていたら。
彼がぼそりとつぶやいた。
「……自信なくしそう」
「なにがですか?」
「俺、美月に言われるまでそこまでスーツが似合ってないと思ってなかった。採寸してもらって、一式作り直してこようかな…」
「──それだけは絶対やめてください」
噛み合ってないのに、彼は無意識に私を揺らそうとしてくる。
バッサリ会話を切って、黙々と親子丼を口に運ぶ。
そんな私を、大地さんはいまいち納得していないような表情で眺めていた。
親子丼は、ちゃんと美味しかった。
••┈┈┈┈••
ジャケットの袖をつかんで、ぐいっと引っ張った。
「なんか、もうほんとに無理なんですって!」
「いててててっ!なにが?いてっ!マジで痛い!」
私がこんなにも情緒がおかしいのに、あちらはただただ痛がるのみ。冷静すぎる。
力一杯に袖を引っ張ってもびくともしない。
「破けたら弁償してくれんの?」
「しますします!とにかく落ち着かないんです!」
「は?意味分かんない」
呆れながらもそれでも観念したのか、ようやくジャケットを脱いでくれた。
私の腕の中にそれがはらりと落とされた。
若干、袖部分がシワにはなっているが。見ないふりをする。
「ハンガーに掛けてくる」
「……ありがとうございます」
ジャケットを渡した瞬間、余計に落ち着かなくなった。
今度はワイシャツ姿か。これもまたこれで無理。
次から次へとやってくる新鮮な姿に、頭が痛い。
「あの!ネクタイも外した方がいいんじゃないですか?」
「えっ…、今度はネクタイ?」
「苦しそうですよ」
「苦しくはない」
「苦しく見えます!」
「なんなの?今日はやたらと突っかかってくるね」
私の意図なんて気にしない顔で、結局そのまま彼はネクタイをゆるめながら親子丼を持ってラグに座った。
「もういいって。あったかいうちにご飯食べようよ」
「……スミマセン」
このひと騒動にすっかり心が疲れて、私もしおらしく親子丼をテーブルに置くと彼の隣に座る。
────もう今日は、絶対に隣なんて見ないんだから。
「「いただきます」」
いつも通りのやり取り。なのに、なんとなく落ち着かない。
見ないって決めたそばから視線を上げると、ネクタイをゆるめたままの彼が目に入る。
いやいやいやいやいやいや。やめてよ。
……なんでそんな状態で平然としてるの。
ひとり忙しなく動いている心臓と格闘していると、親子丼をかき込んでいた彼がふと眉を寄せた。
「……ほんとにどうしたの、さっきから」
「なんでもないですって」
このやり取り、二回目だ。
私ってもしかして、分かりやすい?
バレてたらどうしよう、と不安に駆られていたら。
彼がぼそりとつぶやいた。
「……自信なくしそう」
「なにがですか?」
「俺、美月に言われるまでそこまでスーツが似合ってないと思ってなかった。採寸してもらって、一式作り直してこようかな…」
「──それだけは絶対やめてください」
噛み合ってないのに、彼は無意識に私を揺らそうとしてくる。
バッサリ会話を切って、黙々と親子丼を口に運ぶ。
そんな私を、大地さんはいまいち納得していないような表情で眺めていた。
親子丼は、ちゃんと美味しかった。
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