あと30日で、他人に戻るふたり
「美月?ドタバタしてるけど大丈夫?」

騒々しい私の様子に、リビングから声が飛んでくる。

「ちょっと待ってください今忙しいです!」

いっぱいいっぱいだから真面目に答えられず、ほとんど怒鳴るように叫んで返す。


うるさい心臓と格闘していると、コンコン、とドアをノックされた。

「美月?」

「だめ!開けないで!」

「開けないけど、何かあった?」


思いっきり冷静な声を聞いて、はっと我に返る。
“あれ”一枚ないだけで、この慌てっぷりはまずい。悟られる。


「……えーっと…」

言えない。
絶対に言えない。

言えないまま、そっとドアを開ける。

ドアの外には大地さんが立っていて、たぶん隙間から見えたらしい私の寝室の散乱具合に不思議そうな目をした。


「なんか探してるなら手伝うけど」

「だ、大丈夫です!それだけは!」

食い気味に断る。

「大丈夫じゃなさそうだけど」

「大丈夫!!」

二回も言った。二回目も思いっきり食い気味だった。


目を細めて私の顔をまじまじと見下ろし「怪しいな」とつぶやいた彼は、小さくため息をついた。

「……じゃあいいけど」

あまり納得してない顔で、リビングに戻っていく。


……いや無理。
このままじゃ無理。
どうしたらいいの。“あれ”がないのは大問題。


「……あの、大地さん」

苦渋の決断で、どうしようもなくて無理やり呼び止める。

もう彼はソファに戻ってまた寝転がったところだった。
スマホに視線を落としたまま聞き返す。


「なに?」

「せ、洗濯物って触りました?」

一瞬、顔を上げたけれどまた彼はスマホに意識が戻っていた。

「触ってないけど」

気持ちがいいほどの即答。


やっぱり、そりゃそうだよね。だって彼がここから動いたのを見ていないんだもの。
触るわけがない。


< 208 / 403 >

この作品をシェア

pagetop