あと30日で、他人に戻るふたり
「無駄なことや、寄り道を一緒にするのが楽しいのよね」

そう言って前を向いている篠原さんの考え方は、今の私にはできなかった。

だって、そんなの誘える勇気もない。


「……もし、“行きたくない”って言われたら、どうすればいいんですか」

つい、そんなことを聞いてしまった。
言ってから、しまった、とも思う。

でも言ってしまったものは取り消せない。


言葉が続かない私の様子を察したのか、篠原さんは明るく笑い飛ばした。

「そんなの、無理やり連れ出すのよ」

「えっ…」

思っていたよりも、シンプルな答え。

「こう言ってやりなさい。“私はふたりで行きたいの!”って。そしたらね、意外と来てくれるのよ」


ヨガマットが入っているのか大きめの荷物を肩にかけ直した彼女は、私の顔をやわらかい目で見つめる。

「どうしてそんなに自信がないの?大丈夫よ。旦那様、とっても優しそうだし」

「……優しい、です」


自分で言って、本当にそうだと思った。


大地さんは、優しい。
変なところの方が多いから見えづらいけど、優しい。


出会った初日、ベッドを運んでくれた。

ゴミ袋も、いつも持ってくれる。

ランドリーラックも買ってくれた。

買い物で重いものはすぐに持ってくれる。

不器用なくせに、料理も手伝ってくれる。

寝ている私にブランケットをかけてくれた。


ぶっきらぼうに見えて、本当はすごく優しい。


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