あと30日で、他人に戻るふたり
「────で、この部分なんだけど」

モニターに映された資料を切り替えながら、八代さんがこちらを見る。


「穂村、このあと開発側と最終認識合わせお願いしていい?」


以前なら、何も考えずに「分かりました」と返していたと思う。


でも今日は、返事をする前に一度資料へ視線を落とした。


────どこまで確認する?

そのまま流していい内容なのか、ちゃんと整理するべきなのか。

ほんの数秒。

前までなら存在しなかった“考える時間”が、自分の中にできている。


「……確認項目、一回整理してから投げます」

口にした瞬間、会議室の空気がほんの少しだけ止まった気がした。

たぶん、前の私はそういう返し方をしなかった。

みんなそれを分かっているからこそ、口にはしない戸惑いと不思議そうな視線。


八代さんが一瞬だけこちらを見る。

探るみたいな、でもすぐに消える短い視線。


「オッケー、よろしく」


返事は特別なものでもなく、軽かった。

それなのに、前みたいに“全部任せる側”の感覚ではなくなったことを、お互いなんとなく察している気がした。


「この部分、開発側としてはどうです?竹中さん」

今度は私から竹中さんへ確認を入れる。


竹中さんはモニターを見ながら、少しだけ眉を寄せた。

「そうだなー…、スケジュール的にはいけるとは思う。ただ、この仕様だと運用側への共有は必要になるかな」

「あ、そこ資料に入ってなかったです」

「あとで追記しとく?」

「その方がいいかもしれないですね」

「了解」


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