あと30日で、他人に戻るふたり
この日は珍しく、先に大地さんが帰っていた。

玄関にある黒いスニーカーを見て、あれっと意外な気持ちで「ただいまー」といつもより大きめの声を出す。

すると当たり前のように

「おかえり」

とリビングの向こうから低い声が返ってきた。


ドアを開けると、だらーっとソファに寝そべってスマホを見ているそのいつも通り感に、ふっと心が軽くなる。


「今日は早いんですね」

「うん。切り上げてきた。来週やった方が一気に進みそうだったから」

「自分で調整できるのいいですねぇ」

私は上に着ていた薄手のブルゾンを脱いで寝室のハンガーに掛けたあと、すぐにキッチンへ向かう。


冷蔵庫を開けて、メニューを考える。
野菜が中途半端にけっこう余っているのと、豚肉が少し。

野菜炒めでもいいかな、なんて思っていたら。
いつの間にか、隣に大地さんが立っていた。

「うわっ!!いるなら言ってくださいよ!!」

「なに作るの、今日」

こっちがびっくりしているというのに、彼はもうなんかやる気満々で袖をまくっている。

その姿に思わず吹き出す。

「ちょっと。料理に目覚めてません?」

「いや、目覚めてはない。ひとりだったらやらない」

「……そうですか」


───この人は、なんにも考えないで言ってるんだろうな。

自分の発言で私の気持ちが揺れてることなんて気づいてないだろうし。
“じゃあ私とだからやろうとしてくれてるんですか?”なんて聞けるわけもない。


「週末なんで、余り物でなんとかしたいんですよね」

「ここに出てるやつ使うの?」

カウンターに私が並べた半端に余っている食材を眺めて、大地さんが首をかしげる。

「カレーとかは?」

「ルーがないんですよ」

「あー、なるほど」


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