あと30日で、他人に戻るふたり
レパートリーなんて彼の中にあるわけがないので、判断を私に委ねようとしているのかこちらを見ている。

リクエストしてくれたら助かるけど、食材がなければ応えることも難しかったりもする。


「はぁ。こういう時、実家だとお好み焼きにして全部入れちゃうんですけどね」

特に深い意味もなく口をついた言葉に、思いがけず大地さんが反応した。

「お好み焼き?」

「……あ、はい。ほら、前に話したじゃないですか。私、関西出身なので」

「食べたい」

けっこうな食い気味で言われた「食べたい」に押される。

「全部入れですよ?詰め込みですよ?」

「うん。いい。むしろそれがいい」


そんなに言うならば、と「じゃあお好み焼きにしますね」と小麦粉と卵も取り出す。

「天かすと紅しょうがはないですけど…、仕方ない」

関西人としては大事なそのふたつの具材がないだけで、納得のいかないお好み焼きになりそうだったけれど。

彼が気にしたのはそこじゃなかった。


「えっ?お好み焼きって小麦粉入れるの?」

「──待ってください、当たり前じゃないですか!」

「いや、作ったことないし」

「そんなことあります?」

「楽しみだなー」

完全に話を逸らしたな。


まあ、いいか。
ふと込み上げてきた笑いを我慢して、キャベツや玉ねぎ、ピーマンや人参のハンパものを彼に渡す。

「ぜーんぶ適当に切ってください。ざく切りです」

「分かった」

本当に分かったのかどうかはいいとして、彼は包丁を握るのだった。


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