あと30日で、他人に戻るふたり
齋藤さんが二杯目のビールに口をつけながら、

「いやぁ、でも今回ちょっと穂村さんの印象変わったんだよね」

と私に笑いかけてきた。

「え?私ですか?」

びっくりして顔をあげると、彼はすぐさまうなずいた。

「だっていっつもサラーッと流してくれるところを、ちょっと止めて考えてたじゃん」

「いや、だって仕様変更って聞いてなかったですし…」

「あれは営業側も急だったからさー」


軽く言う齋藤さんの言葉に、竹中さんまで同調し始める。

「穂村さん、ここ最近は落ち着いて仕事してるよね」

「そう…ですかね」

「いいと思うよ。言われたことをやるだけじゃ、いつまでも成長しないからね」


ベテランの竹中さんにそう言ってもらえると、なんだかじんわりと胸が熱くなる。
“成長”っていう言葉が、どれだけ私を上げてくれるんだろう。

じーん、と浸っていたら、逆方向からガッと肩を組まれた。

「私はね!」

と、浅井さんがカットインしてくる。

「穂村さんはずーっと開発推進部の癒しだと思ってんですよ!分かります!?」

「────浅井、もう酔っ払ってない?」

齋藤さんが向こう側で面白そうに笑っていた。

「酔ってませんよ!竹中さんなら分かりますね?私の言いたいこと!」

「うん、分かるよ」

「えっ、分かるんだ…」


唖然としている私には構わずに、浅井さんがビールをグビっとまた飲んでテーブルに雑に置く。

「こっちもお客さんから無理難題を押しつけられて苦しいことたくさんあるんです。で、それを開発に押し通さなきゃいけない!つらい!そんな時、穂村さんは嫌な顔しないで、全部いったんもらってくれるじゃない!?」

「それは…、断れないだけなんです」

「そんなことない!いったんもらってくれるそのクッションが優しいの!」


クッションって、と男性陣は笑っていたけれど。

私がそんな風に浅井さんに受け取ってもらえていたなら、今までの私もそんなに間違っていなかったのかもしれないと思えた。


「もっと自信持っていいと思うよ」

竹中さんのお父さんみたいな雰囲気が、私は仕事においてけっこうホッとしたりしている。

今もそうだ。
営業部の中に、開発側が二人だけなのにそんなに緊張していないのは、竹中さんのおかげかもしれない。


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