あと30日で、他人に戻るふたり
「謝らないといけないなって」

「はい。なんですか?」

「潰れた」

「はい?」

ラップをしてあるお皿が見えて、その先がちょっとだけ透けている。

途端に笑いが込み上げてきた。


「ちょっと!朝からどうして笑わせるんですか!」

「かなり丁重に扱ってやったのに。こいつどんだけ柔らかいんだ?」

「ていうか、いつの間にパン屋さんに?」

「あの篠原さんの行きつけのパン屋の食パンが、美味かったから」


────そこにあったのは、潰れていびつになったサンドイッチ…らしきもの。


どうやら朝起きてから彼は駅前のパン屋へ出向いたらしい。
そこで前に買った食パンを買って、サンドイッチを作ってみたようだ。

ところが、例のごとく力でハムをねじ込もうとしたんだろう。
ふわふわなはずのパンが、潰れて見る形もなかった。


「あははっ、すごい!ここまで縮まるものなんですね、あのパン」

面白すぎて、崩れるくらい笑った。
あんなに気になっていたまぶたの重さも忘れるくらい。

「うん。凝縮させといた」

「……これ、私の朝ごはんですか?」

「───やっぱ食べたくない?」

「ううん!食べたい!」


どんな形でも、彼が私のために作ってくれたサンドイッチは嬉しい。
それがたとえ、もはやサンドイッチみたいな見た目じゃなくても。


「コーヒー淹れるよ」

大地さんはそう言いながら、食器棚からコップを出してくれた。


昨日あんなことがあったのに。
本当にあんなことがあったんだっけ?と思えるくらい、普通の朝だった。


テーブルでサンドイッチを頬張ると、だいぶ大きいきゅうりが見えてきてそこでも吹き出す。

「どういう切り方したんですか?」

「ざく切り」

「歯ごたえすごいです」

「主張してくるんだよなぁ、そいつ」


まるできゅうりが人間みたいに言うから、それもまたツボに入る。

存在感がすごいきゅうりのせいで、サンドイッチを食べているのにきゅうりを食べている気分になってしまう。

でももう、それも全部面白い。


「はぁ、もうすでに笑い疲れました」

ラグの上でソファにもたれてそうつぶやくと、隣でパソコンで仕事をしている大地さんが首をかしげる。

「まだ朝なのに?」

「誰が笑わせたと思ってるんですか?」

「俺は真剣に料理しただけだけど」

……この人、別に笑わせようとして発言してるわけじゃないんだろうな。


その気を遣わないところが、今の私にはちょうどよかった。



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