あと30日で、他人に戻るふたり
結局、乙女心には抗えずちゃんとメイクして身なりを整えたため、まあまあ時間がかかってしまった。


外を見て、日差しが強そう。
帽子とか必要?それとも日傘?
────日傘は邪魔か。

なんなら、せっかく髪の毛もセットしたのに帽子をかぶるのはなんか違う気もする。

シューーーッとUVカットのスプレーを振りかけていると、開けっ放しにしていたリビングから大地さんがこちらをめちゃくちゃ見ていた。


「なに?虫除けスプレー?」

「違います!日焼け止めのスプレーです」

「なんで?そんなに黒くなりたくないの?」

「うーん…、そう言われるとどうなんだろう」

昔から塗りたくっていた日焼け止めクリームに、“日焼けしたくない”という気持ちはあったけれど。
黒くなりたくないかと言われると、よく分からない。

考えながら、昨日も使っていたショルダーバッグを肩にかけてリビングに出る。


「じゃあ聞きますけど、大地さんは色白な人が好きですか?それとも、健康的な小麦肌?」

「俺は──あれだな、美肌が好き」

「そこはちゃんと興味あるんですね。どうでもいいのかと思ってましたよ」

「まあ一応、男なんで。好みくらいは」

「美肌な色白と、美肌な小麦色、どっちが好きです?」

「……この話、いつまで続くの?」


本当に心底どうでもいいな、というしょうもなさすぎる話をしながらふたりで玄関に向かう。

暑そうなのでサンダルを取り出して履くと、それを見て彼がちょっとだけ羨ましそうに眺める。


「俺もサンダル買おうかな」

普段プライベートではだるっとした服を着るのに、足元は意外とちゃんとスニーカーだったことにその言葉で気がつく。

「いいですよ、ラクですし」

「商店街にあるかな」

「あると思いますよ。……あ、でも、」

言いかけて、ドアノブに手をかけた手も、言葉も止まる。

彼は不思議そうに私を見つめた。

「うん?なに?」


何気ない言葉なのに、これから先やってくる当然の話なのに。
言ってしまったら空気が壊れる気がして。

『もうあと少しで出ていっちゃうのに、荷物増やしてもいいんですか?』


言えなかった。


私の言葉を待っている彼に、なにか別なことを言わなくちゃと素早く頭を働かせる。

「……いや、絶対似合うなって思って」

「なんだそれ」

小さく笑う気配がして、代わりに大地さんがドアを開けた。



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