あと30日で、他人に戻るふたり
「あの、私もなにか買いたいです!さっきからずっと買ってもらってます」

「いいよ、割り勘とかめんどくさい」

お店を出たところで抗議するも、大地さんはすぐに切り捨ててドーナツの袋を今度は持ってくれた。

「どれにする?全部の味だって」

「うわぁ、もう〜、迷わせてくる!」

「優柔不断だな」

「大地さんが決断早いんですよ!」

「迷うのは時間の無駄」


そう言うわりに、私が味に迷っていてもそこは急かさないんだよな。

矛盾している優しさに、じわっと胸がほどける。


───と同時に、不意に頭によぎってしまった。


『今日、あの同居人いなきゃワンチャンとは思ってた』

昨日の、八代さんの私に対する言葉。
こんな時に思い出したくもないのに、たぶん、こんな時だからこそ思い出してしまうんだ。


つい無言になってしまって、おそらく表情も消えたんだと思う。

大地さんが怪訝そうに私の顔を覗き込んできた。


「どうした?」

「……あっ、すみません」

「嫌いな味とかあった?」

「───好きです」


ふと口にして、はっと彼の顔を見てしまった。

大地さんはレモネードを飲んでいて、私の言葉を聞いた瞬間きれいにむせていた。


「……は?」

やばい!私、なんてこと言ったんだろう。
急いで付け足す。

「メープル味!ドーナツ!メープルが好きです!」

「あぁ、メープルね。…これかな。見た目がほとんど似てるな」

「どれでも美味しそうなんで、なんでもいいですよ」


袋の中にごろごろ入っているドーナツは、どの味も美味しそうだった。

さっきの『好きです』は消して、私はひとつドーナツを口に放り込んだ。
やさしい甘さと、さくっとした食感。中はしっとりしている。

「やったぁ。メープル当たりました」

「俺はこれ…なんだろ。プレーンかなぁ」

大地さんもひとつ食べていたけど、もはや味が分からなくなっているのか首をひねっている。


ふたりで味を確認しながら、ぶらぶらと商店街を歩いた。



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