あと30日で、他人に戻るふたり
「あとキッチンカー導線なんだけど」

八代さんが資料を切り替えながら続ける。

「前回の穂村が出してくれた案がかなり良かったから、あれをベースで調整したい」

「はい、大丈夫です」

できるだけ淡々と返事をする。


向かい側に座っている竹中さんは、そんな私たちを見ながらコーヒーをひと口飲んでいた。

その視線の気配で察する。
……たぶん、この人は気づいている。


なにがあったのかまでは分からなくても、私が八代さんと少し距離を取ろうとしていることくらいは。

でも竹中さんは、なにも聞かない。

その代わりみたいに、資料を見ながら自然に話題を変えてくれる。


「そういえば穂村さん、昨日の休憩ベンチ案って具体的にイメージとかってあったりする?」

「あ、はい。できれば植栽の近くに置けたらなって思ってて」

タブレットの画面を切り替えて、竹中さんに向けてそれを渡す。
覗き込むようにして八代さんも画面を見ていた。

竹中さんは何度かうなずいて、「うん、いいね」と微笑む。

「小さい子いる人、あそこ絶対立ち止まるし」

「あと夏場は日陰ほしいですよね」

自分の言葉に、自分で少し驚く。

“こうした方がいい”ではなく、“こういう場所にしたい”。
そんなふうに話せたのは、もしかしたら初めてかもしれない。


「穂村さんってそういう“人がどう過ごすか”見るの、すごくうまいよね」

不意に竹中さんがそう言った。

「そうですか?」

思わず顔を上げると、竹中さんは資料を見たまま笑っている。

「開発側ってどうしても機能優先になるからさ。そこ気づけるの、普通に強みだと思う」


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