あと30日で、他人に戻るふたり
たぶん私に言ってないだけで、隙間時間にアプリで良さげな人を見つけてやり取りしては会ってみる、を繰り返しているのだろう。

私が聞いていた話なんて、もうなかったことみたいになっている。

「サウナもいいと思うけどねぇ」

「会ってみたら分かるよ!身体にしか自信ないの。ぴっちぴっちのTシャツ着てきてさぁ」

「一緒に筋トレとか楽しそうじゃない?」

「へぇ。じゃあ美月は好きな人となら筋トレするんだ?」

「──い、いや。しない」


ほらー!!と、優奈の大きな声が店内に響くものの、それすらもかき消すような賑やかなカフェ。

あちこちからナイフとフォークのカチャカチャという擦れ合う音もよく聞こえる。


お冷をひと口飲んで、窓の外を忙しそうに行き交うサラリーマンたちを眺めながら優奈が目を細めた。

「一昨日かなぁ、違う人からメッセージ来たんだけど。写真が全部ゴルフで。でも年収いいし、会うか迷ってる」

「顔は?」

「…あれが無加工なら、マジでギリギリだけど、ありっちゃーあり」

ほぼないようなもんじゃん。
……と思ったけど、ここはあえて言わないでおく。

優奈の恋人に求めるハードルが高すぎて、もうこうなってくると理想の人なんて見つからないのではないか?と心配になってくる。


「八代さんくらい顔がよければ、マジで文句ないんだけどなあ」


するっと出た優奈からの“八代さん”という名前に、私の中で緩やかに流れていた空気がいっとき止まる。

このおかしな挙動はしっかり見られてたらしく、向かいに座る優奈が思いっきり不思議そうに首をかしげるのが見えた。

「……なに?どした?」

「────いや、なんでも」

「嘘だね。なんかあったでしょ」


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