あと30日で、他人に戻るふたり
せっかく優奈のマッチングアプリの話で盛り上がっていたのに。
どうして私は隠しごとが下手なんだろう。

だからといって、簡単に話せるほどまだ傷が癒えたわけでもない。


「八代さんは……優奈が思うほど、いいひとじゃないと思う」

全部は言えなくて。
口にしたらまた自分が嫌な気持ちになるし、八代さんももっと悪者になる気がして。

思い出したくもなくて、自然と言葉を選んでしまう。

「もちろん、仕事はできる。気が利くし、周りも見えてるし、どう立ち回れば一番早いのか計算して動ける人だと思う。でもそれとは別に──」

言いかけて、あの夜のことは胸にしまった。

「人としてそれはどうなんだろうって思うことが、最近あった。だから、やっぱり誰かを好きになるのって、顔じゃない。絶対に」

「────そう思わせるなにかが、あったわけだ」

「……うん」

「そっか…」


優奈はそれ以上はなにも聞いてこなかった。
だけど、さっきまでひとりで盛り上がって楽しそうだった表情とは違う、ちょっと真剣なものに変わっていた。

あぁ、楽しいランチのつもりだったのにごめん。
そう心の中でつぶやく。


「美月のメンタルは?大丈夫なの?」

なんだかんだでちゃんと優しい優奈は、こうしてまず私の心配をしてくれることにほっとする。

さっきの張り詰めそうな空気が切れて、ふわりと笑みを返した。

「うん。私は大丈夫。その時、一緒に住んでる大地さ…じゃなくて。同居人が、わりといつも通り接してくれて。それで救われたっていうか」


< 312 / 403 >

この作品をシェア

pagetop