あと30日で、他人に戻るふたり
ランチを終えて会社へ戻る頃には、昼休みの終わりを告げるみたいに強い日差しがビルの窓ガラスに反射していた。

冷房の効いたエントランスへ入ると、一気に現実へ引き戻される。


エレベーターを降りて開発推進部のフロアへ戻り、自分のデスクへ座る。


パソコンを立ち上げると、武蔵小金井西口再開発案件の修正資料が画面いっぱいに表示された。

イベントスペース前のベンチ配置、植栽位置、休日導線のシミュレーション。

昨日まで、あんなに自然に頭へ入ってきていたのに。


『……出ていくの、止めないの?』


優奈の声が、ふいに頭の中で再生される。

私は小さく息を吐いて、マウスを握り直した。
いま考えることじゃない。集中しなきゃ。


ベンチ位置を少しずらした図面を見比べながら、資料へ修正コメントを打ち込む。

けれど、同じ文章を二回読み返したところで手が止まった。

……まただ。全然考えがまとまらない。


「…穂村さん?」

不意に頭上から声が落ちてきて、びくりと肩が揺れる。

顔を上げると、竹中さんがコーヒーカップ片手にこちらを覗き込んでいた。

「あっ…、すみません」

反射的に謝ると、竹中さんが苦笑する。

「いや、別に怒ってるわけじゃないよ。手が止まってるのが見えたから、考えごとでもしてるのかなって」

そう言いながら、彼は私のモニターへ視線を向けた。

「穂村さん、かなり頭使ってるだろうし気も遣う子だから疲れることもあるでしょ?」

「え?」

「この案件、すごく頑張ってるもんね」


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