あと30日で、他人に戻るふたり
野菜を下にして茹でたお肉を盛り付けていくと、その様子をじっと見ている。

一向にキッチンから出ていく気配がなくて、ふたりいると窮屈なはずのこの場所がどこか安心する場所へと変わっていく。


ご飯とお味噌汁と、野菜たっぷりの冷しゃぶ。
かなり簡単だけど、栄養は採れているメニューだと思う。

「「いただきます」」

手を合わせて、箸を取る。


「俺、この一ヶ月でたぶんかなり健康的なご飯食べてる」

視線はテレビを向けたまま、大地さんがやけに実感を込めたような口調で言うから、「でしょうね」と否定もしないでおいた。

「だって、主食は食パンで。しかもそのまま食べてましたよね?」

「でも体調崩したことないよ」

「三十過ぎたら、一気に来るんじゃないですか」

「来年じゃん」

もうすぐそこすぎて、彼からすればちょっと危機感を覚えたようだ。


私はどちらかというと、野菜を食べないとなんとなく落ち着かなくて。どうしてもご飯を作る時は野菜はなにかしら入れてしまう。

でも彼にとって、料理はこれまで“自分でするもの”ではなかったはずだ。

好き嫌いもないようだし、作る側としては困ったこともないけれど。


もしも、この部屋を出ていったら。
今後どうするのかとか、お節介なことを考えてしまう。

『同居人』ではなく、『他人』になるのだから。
私が言うべきことではない。


「……うまい」

ぼそりと隣りでつぶやかれたその感想に胸が踊ったのに、聞こえないふりをしてテレビの音に集中した。


私だけが、この時間を噛み締めてる。
私だけが、この時間を失いたくないと思ってる。
私だけが、彼のことを好きな気がする。

切なくなってきて、だんだんご飯の味がしなくなった。


あと、一週間。
ちゃんと大切に過ごそう。


そう思いながら、ご飯を口に運んだ。



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