あと30日で、他人に戻るふたり
お風呂に入って、ドライヤーで髪を乾かしてTシャツにスウェットでリビングに戻ると、大地さんはまだ仕事帰りの服のまま、ローテーブルにパソコンを広げていた。

冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して、開けながらそのままソファに腰かける。


この時の私は、完全に気を抜いていた。

いつもなら、彼はパソコンを開けている時は仕事をしていたりするからだ。
今日もそうなんだと思っていた。


その画面には、賃貸情報サイトが広がっている。

水を飲む動きが、自然に止まってしまった。


「……物件、探してるんですか」

後ろから声をかけたからか、大地さんは「まあ、」と半分だけこちらを向いてうなずく。

「そろそろ決めないとさすがにまずいかなって」


いや、彼が言っていることは分かる。
至極真っ当なことだ。

だって、約束の出ていく日まであと一週間だ。
いくら荷物が少ないとはいえ、物件を決めなければいけない時期ではある。


私のいる位置から、パソコンの画面がよく見える。
条件をいくつか入力して、絞り込んでいるのもちゃんと視界に入ってしまう。

その矢先、彼が深いため息をついた。


「……めんどくさいな」

口癖みたいなそのセリフをぽろりとこぼして、ソファにもたれる。

「駅近と、ちょい広めならどっちがいいと思う?」

「えっ…」

「近くにコンビニとかあれば便利かな」

こっちの困惑はお構いなしに、大地さんは流れるようにスクロールしながら首をひねる。

「マンスリーマンションもありかなと思ったりしててさ。家具とか揃ってるし」

「……そう、かもしれないですね」


なんて返せばいいのか、落としどころが見つからない。

彼はパソコンの画面を注視していて、後ろに座る私の顔色を気にしていないことが不幸中の幸いだった。


「……俺、美月の食器とか使ってたから基本的な小物、全然ないや。そういうのも買わないといけないのか」

「────私!」


飲みかけのペットボトルを、無意識にドン!とテーブルに置いてしまった。

意外と大きな音を立ててしまったので、ちょっと目を丸くして大地さんが私を見る。

その視線から逃げるように、

「もう、寝ます」

それだけ言って、おやすみの一言も言わずに寝室へ飛び込んだ。


バタン、と閉まったドアを閉める直前、まだ彼がこちらを見ているのが見えたけれど。

気配だけは感じたまま、構わず遮断した。


最後に見えた彼の顔は、眉を寄せていて。

───なんか、まずいこと言った?

そんな空気だけが、静かなリビングに取り残されたと思う。


やっぱり、私だけだ。
それを突きつけられた瞬間だった。


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