あと30日で、他人に戻るふたり
外は雨が降り続いていて、当たり前に傘が必要だった。

傘があることで、私と八代さんの間には自然に距離ができて、ある意味これも神様がくれた助け舟のような気がした。


「そこのカフェでもいい?」

「はい」

「混んでなきゃいいけどなぁ」

湿気も気温も高いジメッとした空気の中で、私と彼は適度な距離を保ったまま会社近くの小さなカフェへ入った。


ちょうど二人用の狭い席が空いていたので、そこへ通された。

お互いにコーヒーとホットドッグを頼んで、それらは迅速に運ばれてきた。
熱々の湯気が立つコーヒーを、どちらも手をつけない。

私は真正面に座る彼を直視できないし、彼もまた、なにか話すための糸口を探っているのか落ち着きなく視線が定まっていなかった。


けれど、ここまで来たからには。

「……あの、」

私から切り出した。

「あの時のことを謝ろうとしているのなら、それは結構です」

自分でも、わりと強めの言葉が出たなと思う。
けれどそれは本音でもあり、伝えたかったことでもある。


八代さんが「い、いや」と小さく狼狽えるのが見えた。
仕事では絶対に見せない、たぶんプライベートな部分だろう。

でもそれを見たところで、なんの感情も湧かない。

「そもそもさ、誤解なんだよ。それを穂村に分かってほしくて」

「……誤解、ですか?」

「だってさ、俺たちあの時、何杯飲んでたと思う?」

────あ、この人、こんな時まで自分を守った。


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