あと30日で、他人に戻るふたり
八代さんと別れて会社へ戻る頃には、雨足は少しだけ弱くなっていた。
傘についた雨粒を軽く払ってフロアへ戻ると、冷房の効いた空気が肌に触れる。

さっきまでの会話が嘘みたいに、社内はいつも通りだった。


誰かの電話の声。 キーボードを叩く音。 コピー機の作動音。

それらに紛れ込むみたいに、自分の席へ戻る。


ちゃんと話せた。 逃げなかった。

なのに、どっと疲れた。


パソコンを開いて、武蔵小金井案件の資料を表示する。

イベントスペース周辺の滞留シミュレーション。
今日みたいな雨天時の導線。
提案した植栽配置。

画面を見ているはずなのに、意識が少しぼやけてしまう。
お昼に使った精神力の消耗が、自分で思っているよりもずっと多いのかもしれない。


「穂村さん、ちょっといい?」

不意に声をかけられて顔を上げると、ここ最近はよく話す竹中さんがこちらを見ていた。

「はい、大丈夫です」

「雨の日の導線、ちょっと気になっててさ。五分だけ付き合って」

軽い調子でそう言われて、私は資料を持って打ち合わせスペースへ移動する。


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