あと30日で、他人に戻るふたり
「穂村さんってさ、」

竹中さんがモニターを見ていた視線を、私に移すとぽつりと口を開いた。

「開発っていうより、“企画側”の視点強いよね」

思わず手が止まる。

「“企画側”……ですか?」

「うん。図面そのものより、“人がどう過ごすか”を先に見てるじゃない?」

竹中さんはにこりと微笑んで、自然な口調のまま続けた。

「この前の休憩スペースの話もそうだし。穂村さんって、“ここで人がどう感じるか”考えるのうまいなぁと思って」


そんなふうに言われたこと、今までなかった。

推進部としてどうか。 仕事が早いか。 調整がうまいか。
営業と開発の橋渡しを、いかにスムーズにできたか。

評価される時って、いつもそういう話だったから。


まだちょっと衝撃が抜けないまま、

「……考えたこと、なかったです」

と絞り出した。

「まあ、自分じゃ分かんないよねぇ」

竹中さんは笑いながら、手元の資料にまたなにかを書き込んでいく。
視線はもう私からは外れていて、仕事の合間の雑談みたいにフフッと笑った。

「でも、企画部とか案外向いてるかもね」

さらっと。
本当に、ただのつぶやきみたいなテンションだった。

それなのに、その言葉だけが胸の奥へ静かに残る。

“企画部”。
そんな道、考えたこともなかった。

「穂村さん、自分が思ってるより、向いてる仕事って今の部署以外にもあると思うよ」

今度はモニターへ向けてそう言った竹中さんの横顔を見ながら、私は小さく息を吐いた。


雨音が、窓の向こうで静かに続いている。

さっきまで胸の中に残っていた重たい感情が、少しだけ薄まった気がした。



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