あと30日で、他人に戻るふたり
「……すみません、ちょっと今日は行けないです」

はっきりと、電話の相手にそう言ってるのが聞こえた。
私の思考が一時停止する。

“行けない”?

頭の中で繰り返しているうちに、また大地さんの声が続く。

「はい。それぐらいのトラブルなら、たぶん今日出社してる誰かで対応できると思います。……よろしくお願いします。なんかあればまた連絡いただけたら」


少し前まで、『自分がやった方が早い』とか『誰かに任せる方がストレス』って言ってたのに。

今日は────どうして。


そう思っているうちに、電話を終えた大地さんがキッチンに戻ってくる。

戻ってきてすぐ、私の納得していない顔を見たんだろう、苦笑いを浮かべた。

「せっかく時間かけて作った餃子、食べないと」

「無理しなくても。冷凍すれば、また今度──」


言いかけて、言葉に詰まる。

私たちに、“また今度”なんてないんだった。


「……じゃあ、焼きますね」

「うん。パリッと」

「プレッシャーだなぁ、もう!」

隣に立つ大地さんの気配が、どこかいつもより近く感じる。


違和感を残したまま、私はまたフライパンに火をかけた。


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