あと30日で、他人に戻るふたり
どちらにしろ悠々とじっくり選んで買い物できるのはありがたい。
厳選して、野菜や生鮮食品を見ることができる。

「はぁ、お刺身食べたい…」

つい願望が口から出てしまって、隣の大地さんからの視線を浴びる。


「なんで?買えばいいじゃん」

「高いじゃないですか。お刺身はいつも値引きされたものしか買わないです」

「食べたいなら買いなよ」

「いや、でも…」

「美味いもん食べたい時ぐらい、別によくない?」


彼はカートに肘をかけたまま、当たり前みたいな顔をしている。

「……そういう問題じゃないんです」

なんとなく口を尖らせると、大地さんは少しだけ考えるみたいに黙った。

「節約したいのは分かるけどさ」

そこで彼は、冷蔵ケースの中に並ぶ刺身を見下ろしたまま続ける。

「美月って、普段ちゃんと我慢してるじゃん」

その言葉に、思わず顔を上げた。

「だから、食べたい時ぐらい食べればいいのにって思っただけ」


────そういう一つひとつの言葉が、全部刺さってるって言ったら。彼はどんな顔をするだろう。

びっくりするのかな。
それともまた、困った顔をするのかな。


いつもは手が伸びないお刺身に、ようやく視線を落とす。

「……大地さんは、お刺身だとなにが好きですか?」

「んー、マグロ」

「っぽい!」

「なんだそれ。美月は?」

「サーモンです」

「だと思った」

似たようなことを話しながら、マグロとサーモンのお刺身のパックをカゴに入れた。


いつもより単価の高いカゴが、今日は特別なものに思えた。



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