あと30日で、他人に戻るふたり
夕飯の支度をしようとキッチンでお米をセットしたところで、音もなく大きな影が横切った。

どうやら大地さんが起きたらしい。


「……ごめん、寝てた」

「私も寝ちゃったんですよ」

「どこまで見た?映画」

彼は冷蔵庫のペットボトルの水を飲み干して、あの予想合戦しかしていない映画の話をする。

ものすごく自然に私の隣に立って、包丁を取り出していた。


「…なんか、女の人がめっちゃ撃たれてるのに全然倒れないで襲ってくるあたりです」

「うわー、俺たぶんもうそこ寝てる」

「いや、まだしゃべってましたよ」

「寝言かもしれないじゃん」

「これ、トマト適当に切ってください。サラダにします」

「はーい」


水切りしていたレタスと玉ねぎの盛り付けをして、ひじきの煮物を作ろうと人参を彼に渡す。

さすがにおかずがお刺身だけっていうのも寂しい。


人参は細く千切りしてほしかったけれど、たぶん彼には無理だから。
煮込めばいいや、とざく切りでお願いした。


「…なんか、だんだん料理のレベル上がってますね」

わりと淡々とこなしていく彼の横顔を見ていたら、「そう?」と返してくる。

「俺はずっと乱切りが気になってるよ」

「まだそれ言う?」

「千切りとかはイメージつくけどさ、乱切りって漫画に出てきそうな技の名前じゃん」


終始どうでもいい話。いつも私たちは、結局これだ。


しっかり煮込んだひじきの煮物が完成した頃、お米が炊き上がる。

あとはお刺身をパックのまま出して、夕飯の支度は終わりだ。


「「いただきます」」

ふたりで並んで、ご飯を食べる。

たったそれだけの特別でもなんでもないことが、今日はもう名残惜しい。


刺身を食べた大地さんが、「うまっ」とこぼす。

「やっぱ買ってよかったね」

「……ですね。めっちゃ美味しい」

久しぶりに食べたサーモンは、小さな幸せを胸に灯した。



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