あと30日で、他人に戻るふたり
「ちょ、ちょっと!」

ひとり慌てふためく。

「なんで?大事なことって言ったじゃん」

「昨日の今日で、なんかすごい距離近くなってません?」

「俺は変わってないよ」

彼はなんてことないように、今度はひじきの煮物を口に運ぶ。


「お互いのことを知るための、第一歩じゃない?」

「……全財産くれるんですもんね」

「うん。あげる」

あまりにあっさりうなずかれて、照れる暇もなかった。


「大地さんって、かなり稼いでるんですね…」

私も自分のスマホで給与明細を彼に見せながら、お互いスクロールしてつぶやく。

「呼び出しとかで夜中に出たりするし、残業代もあるからね。あんまり物欲もないし貯まるだけ。美月が困らない暮らしはできるよ」

「私はそれでも働きます!」

「…ははっ、だろうね」

不意に笑われたので、どうしてだろうと首をかしげる。

私の怪訝そうな顔を見て、大地さんはお味噌汁をごくんと飲み込んだ。


「だって美月って、あんなクソみたいな先輩がいても、仕事には楽しそうに行くじゃん。仕事は好きなんだろうなと思ってた」

「表現がむごい…」

「あれからどう?あの先輩たち。大丈夫?」

「うん。切り捨てました」

「美月のそういうとこ、好きだよ」


全然予想もしてなかった場面で“好き”というワードが出てきて、危うくむせそうになったけれど。

特になにかすごいことを言った自覚はないらしく、彼自身は食べ終わった食器を重ねて「ご馳走様でした」と手を合わせている。


「まあ、そういうことだから金の心配はいいよ。俺たちは俺たちでこの部屋を改めて借りよう」

「……はい」

私はまだ残っているサバの塩焼きに、ゆっくりと箸を差し込んだ。


食器をキッチンに持っていく彼の背中を見つめて、小さな変化に緩んでしまう気持ちを止められなかった。



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