あと30日で、他人に戻るふたり
「…後ろ向いて」

大地さんに言われるがまま、私は彼に背中を向けて髪の毛を押さえる。

大きな手が回ってきて、首の後ろでしばらくなにやらもたついているのかまったく声が聞こえない。
でも、ここで声をかけるのは違う気がして私も黙り込む。

テレビの笑い声だけが、部屋に響いていた。


かなり時間が経ってから、やっとのことで

「よし、つけられた」

と安心したような声がしたので、私も髪の毛を下ろした。


長さは前のネックレスとほとんど同じ。

微妙に違うデザインだったけれど、このネックレスを彼がどこでどうやって買ったのか。
お店にわざわざ行って店員さんに相談したのかと思ったら、愛おしくてたまらなかった。

その気持ちがなによりも嬉しかった。


「……ありがとうございます」

「あの時はごめん」

「いいんですって、あれは…」

たしかに気に入ってたけれど、でも。

「もう私、これだけでじゅうぶんです」


睡魔はもう、どこへやら。

でもまだ気軽に甘えることもできなくて、笑顔だけ彼に向けた。


「……前のより安っぽかったらどうしようって、ちょっと思ってた」

大地さんはふとほっとしたように笑っていた。


あのちぎれたネックレスは、私もなんとなく捨てられなくて部屋に取っておいてある。
でも彼があれを見たのは、あの壊れてしまった日だけ。

あの時の記憶を頼りに買ってくれたとして。
“安っぽさ”を気にするあたりが、彼らしい。


「気にするの、そこなんですか?」

「つけるのは美月だし。気に入ってくれないと意味ないでしょ」

「…気に入らないわけないですよ」


彼がくれた、初めてのプレゼントだ。




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