あと30日で、他人に戻るふたり
ちゃんとバッグに折りたたみ傘を入れて出勤した私は、まずはやらなきゃいけないことがある、と気合いを入れてデスクへついた。


パソコンを立ち上げ、道行く人達と朝の挨拶を交わしながら通常業務と並行して“あるもの”を作成する。

パソコンのキーボードを打ちながら、なんとなく緊張してきた。

でも、もう決めたから。
───本当に私がやりたいことを。


私は書類の入ったファイルを手に持ちながら、野崎課長のデスクへ向かう。

課長は頼りない髪の毛しかない頭をポリポリかいて、眠そうな顔でモニターを見ていた。
時折、資料はどこだっけと机の上をばさばさひっくり返したりもしている。


「…あの、野崎課長。お疲れ様です」

忙しそうだけど、話すのは今しかない。
そう思って声をかけると、あっさり課長は「うん?」と顔を上げてくれた。


「今、ちょっとお時間よろしいでしょうか」

「いいよ、どうしたの?」

どこか小会議室だとか、打ち合わせスペースみたいなところに移動できたらよかったけれど。
そんな時間もなさそうだ。

そして、おそらくフロアがやかましいおかげで私たちの会話に聞き耳を立てているような人もいない。


私は課長に少しだけ一歩近づき、持っていたファイルを渡した。

「これを、お願いしたいです」


渡したのは────部署異動願い。


「……えっ!?」

課長は目をまん丸にして、信じられないといったよう顔で私と書類をいったりきたり視線が行き交う。

「ど、どうして?」

「すみません。すぐじゃなくても大丈夫です。引き継ぎとかもしっかりしてからで構いません。私…」

言いかけて、決意をちゃんと口にした。

「企画部に、異動したいです」


口にしたら、どこか張り詰めていた気持ちがほどけた。


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