あと30日で、他人に戻るふたり
焼き上がったおせんべいを、紙で下の部分だけ包んで持てるくらいの大きさにして店員さんが渡してくれた。


まったく重くはない。
でも、両手で持たないとバランスが崩れそう。

以前ここに来た時に、落として割ってた子もいた気がするし。


「でかっ!マジででかい」

大地さんの感想は、やっぱりシンプルにそれ。

「美月の顔四個分ある」

「なんだろう…嬉しくない」

「なんで?てか、食べないの?」


不思議そうに聞かれて、私は心外すぎてすぐに言い返した。

「食べますよ!でも一緒に食べたいじゃないですか!」

「半分こする?」

「割る時に事故りそうなんですけど」

「俺がやる?」

「もっと事故りそう!」

不器用にやらせたら、一発で地面に落ちそうなおせんべいのサイズ感。


ふたりでどっちが割るのか、どっちが先に口をつけるのか揉めていたら。

聞き慣れた明るい声が聞こえた。


「あら偶然!こんばんはー!」

同時に振り向いたら、そこにはなんと。

お隣の奥様の篠原さんと、私はたぶん初めましての──旦那様。


「あっ、こんばんは」

反射的に挨拶をすると、大地さんもちゃんと「こんばんは」と返していた。


「藍沢さんちもここに来てたのね」

偶然とはいえ会えるとは思っていなくて、篠原さんは嬉しそうに目を細める。

そして思い出したみたいに横にいる旦那様を肘で小突いていた。

「ほら、お隣の藍沢さんご夫婦よ。まだ奥さんに会ったことないって言ってたじゃない?」

「ああ、どうもー。お世話になってますー」


旦那様は、白髪混じりのオシャレな方だった。
まさに篠原さんにお似合いの、身なりをしっかり整えた男性。

味わいのある革のバッグを小脇に抱えて、もう片方の手にはお惣菜が入った袋。


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