あと30日で、他人に戻るふたり
「初めまして。いつも妻とお話してくださってるみたいで」

旦那様にそう言われて、私は慌てて頭を下がる。

「いえ、こちらこそ。付き合わせているのは私の方なんです。いつもありがとうございます」

本当のことだから、こういう時じゃないと伝えられない。
改めてお礼を言える機会ができてよかったのかもしれない。


「なんだか、今日はいつもと雰囲気違う?気のせい?」

何気なく篠原さんに指摘されて、私たちは顔を見合わせる。

……こういう人って、無意識に全部悟っていたり、するんだろうか。


否定しようとしたところへ、大地さんが先に口を開く。

「……あの、すみません」

「え?」

「嘘、ついてたんで。謝りたくて」

「────嘘?」


篠原さんご夫婦だけじゃなく、私まで驚いて彼を見上げてしまった。

でも大地さんは、私の方はまったく見ない。


「じつは俺たち、夫婦じゃないんです。一緒に暮らし始めたばかりで。タイミング逃して違うとも言えなくて。すみません」


巨大なおせんべいで、顔を隠すのが精一杯だった。
なにを言い出すのかと思ったら、“夫婦”の訂正。

ちょっとこれはこれで、恥ずかしい。

ただ、今言わないと絶対にもう直す機会なんてない。
それを逃さない大地さんは、ある意味すごいと思う。


「なーんだ、そうだったのね!」

「同棲を始めたばっかりって感じかな?」

「いい時期じゃない、ねえ?」

篠原さんご夫婦は、あまりにもあっさりとその事実を受け入れた。

そうだったんじゃないかと予想していたみたいに。


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