あと30日で、他人に戻るふたり
「優奈…、来るなら来るで事前に言ってよ」

「なんでよー、いいじゃん。私生活を覗きに来たんだからさ」

「ほんとに、ほんとに期待しないで」

「またまたぁ」

「ほんとに期待しないで。お願い」


切実な願いを口にしながら、優奈が楽しげな表情に変わって玄関でパンプスを脱ぐ。

ポニーテールに、小洒落たブラウスにスカート。
こんな可愛らしくしてきてくれたのに。

なのに、本当に申し訳ない。


このドアの向こうのリビングには、一切整えていない人がいるというのに。


「お邪魔しまーす!」

元気よくリビングに行こうとする優奈に、先に前置きするべきだった。
なにかひと言でもいいから。

怠った私が悪い。


思いっきりリビングのソファに寝そべり、スマホを眺めてこちらを見もしない、寝ぐせのついた大きな人。

客人を出迎えるとか、そういう気持ちは一ミリも伝わらない状態で優奈と初対面してしまった。


「……お!お邪魔しまーす!」

優奈はめげない。
一応、二回言った。


大地さんは体を起こすでもなく、スマホに向けていた視線をちらっと一瞬だけ優奈に送っただけで、

「はい、どうも」

と親戚のおじさんみたいな反応を示した。


「ちょっ…」

なにかを言いかけた優奈の口を、私が容赦なく塞ぐ。
殺人未遂みたいな光景だけど、今やるしかない。

そのままキッチンに連行した。


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