あと30日で、他人に戻るふたり
「────理解した」

悟りを開いた優奈が、これ以上彼を深堀りしないことにしたのか小さくうなずいている。

「こういう生き物だと思うことにする」

「うん。まあ、そんな感じ」

「美月ってこんな趣味だったんだ…」

「いや、もうちょい人間っぽいよ、普段は!」


本人を目の前にしているのに、遠慮がない私たちの会話。

たぶん、キッチンでのやり取りをここでしていようが彼はなにも言うまい。
気配を消している……すなわち。ここにはいないのだから。


なにかを思い出したのか、不意に大地さんがソファから降り立ってキッチンへ歩いていった。

ちゃんと動いたのを初めて目のあたりにした優奈が、ちょっとだけ驚いた顔でまたこそっと私に耳打ちする。

「動くんだね」

「そりゃ、…生きてるから」

「究極の答えすぎる」


ふふっと笑った優奈が、アイスコーヒーに手を伸ばしかけて「あ、」と止まる。

「ごめん、ガムシロある?」

そういえば彼女は砂糖をいつも入れてるんだった。
「待っててね」と言って立ち上がろうとしたら。


「持ってくよ」

とキッチンから声が飛んできた。

…あ、そうだキッチンには彼がいる。ラッキー。
その時の私はそれぐらいに感じて適当に返事をする。

「ありがとうございますー」

「何個?」

「一個で大丈夫でーす」


きょとんとした顔で優奈が私を凝視している。

「ん?なに?」

「いや…」

なにか言いたげなのに、なんか口ごもっている。


「美月、もらったお菓子開けなくていいの?」

「はっ!そうじゃん!」

大地さんのひと言で、結局立ち上がった。


「あ、いいよー。お土産だもん。ふたりで食べてよ」

「いや!あれいいやつだよね?みんなで食べようよ!」

申し訳なさそうな優奈を置いて、いそいそとキッチンへ走る。

もうすでに、大地さんが箱を開けてくれていた。

「どのくらい出すの?」

「お皿に乗せますか。個包装だし」

「どの皿?」

「あっ!ほらぁ、こういう時に役立つんですよ。前に上の棚に置いた、引き出物の綺麗なお皿!」

「あぁ…」

私は踏み台を使わないと取れない位置のお皿を、大地さんがひょいと取ってくれる。


「ガムシロってありましたっけ…」

「もう出したよ。この間買ってたじゃん。右の棚の下から二番目」

「そういう記憶力はすごいですよねえ」

普段はナマケモノみたいなのに。
……これは、なんとか我慢して言わないでおいた。


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