あと30日で、他人に戻るふたり
まだソファでパンを食べている大地さんは、もう興味なさそうにスマホを見始めてしまった。
そんな彼に慣れ始めたのか、優奈はもう構うことなくいつものようにしゃべり始める。
「やっぱ、アプリの人と会ってみようかなー」
「まだやってんの、アプリ」
「プロフィールだけじゃ、合うか合わないかなんて分かんないよね」
「まあ、それはそうだね」
「ひょっとすると相性いいかもしれないし。…美月たちみたいに」
私たちには分からない、他人から見た温度が、たぶんここにはあるんだと思う。
相性がいいかどうかなんて、あんなちょっとした普段のやり取りだけで伝わるものなんだろうか?
優奈の考えていることは分からなかったけれど、言いたいことは分かる。
「相性、か。そういうの大事だよね」
「でしょー?」
私と優奈がそんな話をしている間も、大地さんは食パンを食べながらスマホを眺めていた。
会話に参加しているのかしていないのか、よく分からない。
───いや、してないか。
ふと、優奈が私の方へ身体を寄せる。
「……でも、よかったね」
「え?」
さっきよりずっと穏やかな声だった。
「美月、ずっと楽しそう。ここが“帰りたくなる部屋”になったって感じ」
不意にそんなことを言われて、なんて返事をしたらいいか分からなくなる。
“帰りたくなる部屋”。
その言葉を頭の中でゆっくり反芻していたら。
「美月」
ソファから声が落ちてきた。
「はい?」
顔を上げると、大地さんが空になったパンの袋をこちらへ向けている。
「パン、もうない」
────知るか!!
「さっき食べたでしょ!?」
「足りなかった」
「優奈いるんだからちょっと静かにしてください!」
「気配は消えてるはず」
まだそれ言ってる。
全然消せていないことを、分かってないんだから。
ついに優奈が耐えきれなくなったみたいに、テーブルに突っ伏して笑い始めた。
「だめ、無理……!ほんとなんなのこの人!」
笑い声が部屋に広がっていく。
その空気が妙に心地よくて、私もつられるみたいに笑ってしまった。
窓の外では、真夏の日差しがじりじりと街を照らしている。
コーヒーの匂いと、笑い声と、生活の音だけが静かに部屋に満ちていた。
••┈┈┈┈••
そんな彼に慣れ始めたのか、優奈はもう構うことなくいつものようにしゃべり始める。
「やっぱ、アプリの人と会ってみようかなー」
「まだやってんの、アプリ」
「プロフィールだけじゃ、合うか合わないかなんて分かんないよね」
「まあ、それはそうだね」
「ひょっとすると相性いいかもしれないし。…美月たちみたいに」
私たちには分からない、他人から見た温度が、たぶんここにはあるんだと思う。
相性がいいかどうかなんて、あんなちょっとした普段のやり取りだけで伝わるものなんだろうか?
優奈の考えていることは分からなかったけれど、言いたいことは分かる。
「相性、か。そういうの大事だよね」
「でしょー?」
私と優奈がそんな話をしている間も、大地さんは食パンを食べながらスマホを眺めていた。
会話に参加しているのかしていないのか、よく分からない。
───いや、してないか。
ふと、優奈が私の方へ身体を寄せる。
「……でも、よかったね」
「え?」
さっきよりずっと穏やかな声だった。
「美月、ずっと楽しそう。ここが“帰りたくなる部屋”になったって感じ」
不意にそんなことを言われて、なんて返事をしたらいいか分からなくなる。
“帰りたくなる部屋”。
その言葉を頭の中でゆっくり反芻していたら。
「美月」
ソファから声が落ちてきた。
「はい?」
顔を上げると、大地さんが空になったパンの袋をこちらへ向けている。
「パン、もうない」
────知るか!!
「さっき食べたでしょ!?」
「足りなかった」
「優奈いるんだからちょっと静かにしてください!」
「気配は消えてるはず」
まだそれ言ってる。
全然消せていないことを、分かってないんだから。
ついに優奈が耐えきれなくなったみたいに、テーブルに突っ伏して笑い始めた。
「だめ、無理……!ほんとなんなのこの人!」
笑い声が部屋に広がっていく。
その空気が妙に心地よくて、私もつられるみたいに笑ってしまった。
窓の外では、真夏の日差しがじりじりと街を照らしている。
コーヒーの匂いと、笑い声と、生活の音だけが静かに部屋に満ちていた。
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