あと30日で、他人に戻るふたり
コーヒーを一杯飲んで、ちょっとお菓子をつまんだだけだというのに、優奈は早々に帰ると言い出した。


「もっとゆっくりしていっていいんだよ」

何度もそう言ったけれど、聞いてくれなかった。

「私は美月の彼氏を見に来ただけだからさ」

「────え?俺?」


だいぶ時間差で食らっている大地さんを横目に、優奈はまだ口元を緩めたままぺこりと頭を下げる。

「美月のこと、よろしくお願いします」

あらたまってそんなことを言われるとは思ってなくて、私の方が慌てふためいていると。

大地さんが隣であっさりとうなずく。

「はい。それはちゃんと、よろしくされます」

「なに、その返し」

つい口を挟んでしまった。
その横で、彼も悩ましげに眉を寄せる。

「ん?なんて言えばいいんだ?」

「“おまかせください”とか?」

「“ドンと来い”的な?」

「私に聞かないでくださいよ」


やいのやいの言い合っていると、優奈はまたケタケタ笑ってバッグを肩にかけ直した。


「次は、しっかり整えたバージョンで会いたいです」

「いや、俺はもう結構です」

はっきりそう返していて、私も優奈も笑ってしまった。



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