あと30日で、他人に戻るふたり
玄関のドアが閉まって、優奈の足音が廊下の向こうへ遠ざかっていく。

部屋の中が急に静かになって、私は大きく息を吐いた。


「……疲れた」

「なんで美月が?」

後ろから聞こえてきた声に振り返ると、大地さんはもうソファへ戻っている。

さっきまで人が来ていたなんて嘘みたいに、だらっと寝転がってスマホを眺めていた。


「だって緊張したんですもん」

「俺の方が頑張った気がする」

「どこがですか?」

「ちゃんと起きてた」

それは、まあ。 たしかに。

思わず吹き出すと、大地さんは眠そうに目を細めた。


「美月」

「はい?」

呼ばれて隣へ行くと、そのまま当たり前みたいに腕を引かれる。

バランスを崩してソファへ倒れ込んだ私を見て、彼はちょっとだけ満足そうに笑った。

そして軽く抱き寄せられる。

「…これでいい?」

そう尋ねられて、なにが“これで”なのか、説明が足りなすぎて笑いがこぼれた。


でもたぶん。

優奈に会ったことも。 ちゃんと起きていたことも。 “よろしくされます”って言ったことも。

全部含めて聞いてるんだろう。


だから私も、小さく笑ってうなずく。

「うん。これがいい」

腕の中で、幸せな気持ちに包まれた。



洗いたてのシーツが風に揺れる音がする中、隣では大地さんが「パン買っとけばよかった」とかなんとかつぶやいている。


そんな、いつも通りの午後だった。



⟡.·*.ほんとのほんとに、おしまい⟡.·*.
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