あと30日で、他人に戻るふたり
「起こしてくれてよかったのに」

どっちが正しいかとか、そういうことじゃなく。
決めたルールは“絶対”とかでもないけれど。

なんとなく、遠慮されたくなかったのに。

「いいよ」

私と違って、あっさりとした声。

「どうせ、またすぐに出るし」


彼の仕事は、どうなっているのだろうか。
休む日をきちんと会社で確保してくれたりはしないのだろうか。

……そんなことを考える自分にも、少し驚いた。


なにより、こんな状況でもちっとも大変そうな雰囲気を出してこない彼が不思議でたまらない。


気を取り直してカーテンを開けた。
清々しいまでの晴れた空。今日は日中は暑くなるかもしれない。


ソファでパンを食べる彼の隣に座り、私も昨日買っておいた惣菜パンを食べ始める。


「藍沢さんて…」

食べながら、なんと表現するのが正しいのか悩む。

けっこう悩んだのに、するりと出てきた言葉はわりとそのままだった。

「タフですね」

「────そう?」

「タフですよ!よく倒れませんね」

「じゃあ、タフなのかもね」

初めて言われた、と付け加えられた。


そしてソファの背もたれに身を預けると、私の方を向く気配がした。

「穂村さんは、ちゃんとしてるよ。俺よりよっぽど」


なぜか、隣を見れなかった。
見てしまったら、なにか変わりそうで。


私は別に、そんなにちゃんとしてない。
むしろいつも流されて生きてきたと思っている。

まだそんなにお互い知らないはずなのに、随分前から知ってるみたいな言い方で。


どこか不思議でたまらなかった。




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